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DRIVE CHARTのAI技術まとめ-データサイエンス編

AIAI技術まとめ
December 06, 2023

AI技術開発部データサイエンスGの菊地です。今回の記事では次世代AIドラレコサービス『DRIVE CHART』を実現するためのデータ分析技術について、過去に執筆された内容をもとにまとめていきたいと思います。こちらの記事は画像認識編AI運用技術編の続編となります。


はじめに

『DRIVE CHART』は、ドライブレコーダーから得られる各種データから、危険シーンを自動検知し、運転傾向を分析する、AIとIoTを掛け合わせた交通事故削減支援サービスです。街を縦横無尽に走行するタクシーや営業車、走行距離の長いトラックなど、プロの現場で多く採用されています。現在の契約車両は60,000台以上(2023年6月時点)と、関東・中京・京阪神エリアを中心に全国に広がっており、中でも、営業車を保有する企業様での導入が増加しています。コロナ禍による営業車の稼働減少に伴う自動車保険料の削減を踏まえ、アフターコロナに稼働が戻った際にも、現状の保険料をキープするために、事故削減に対して積極的なアプローチができる本サービスの導入を決定いただくというケースが増えています。リアルタイム検知項目として、衝撃・車間距離警報・衝突警報・脇見警報・マニュアル録画、レポート検知項目として、脇見運転・車間距離不足・一時不停止・速度超過・急ハンドル・急加速・急減速・急後退を提供しています。こちらの全体像に関しては、映像情報メディア学会誌に総説記事が掲載されているので、こちらを参照してください。

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「AIドラレコを支える技術~DRIVE CHARTを例に~」(映像情報メディア学会誌、2021年11月)

今回のまとめ記事では、『DRIVE CHART』で使用されている自然運転ビッグデータから運転のクセを抽出する際の技術を紹介していきたいと思います。

運転ビッグデータ分析によるリスク運転映像の自動検出

『DRIVE CHART』はドライバーの危険なシーンを自動的に抽出して、それを動画教材として提供するサービスなので、検出に間違いがあると教育効果が薄れてしまいます。例えば急ハンドルというリスク運転では主に加速度センサーの値を用いて判別していますが、正しい検出のためにはノイズの除去だけではなく、似た事象である段差による急な変化とを区別する必要があります。以下の記事では、急ハンドルのほか、脇見、一時不停止、急後退というリスク運転の検出精度向上とデータサイエンスチームの取り組みについて紹介しています。

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図1:加速度の大きさだけで映像を提供するのではなく、急ハンドルのパターンをAIが学習することで必要な映像のみを提供することが可能に(下記記事より転載)

技術記事1:長時間運転とリスク運転回数の関係

物流事業に携わるドライバーは長時間の走行によって、何らかの疲労がたまることで事故へのリスクが上がるのではと考えられますが、これまでは指定された交差点や経路を対象とした限定的な検証が多く、ドライバーのクセを抽出するために必要な自然な運転環境での検証が十分ではありませんでした。こちらの記事では『DRIVE CHART』を導入している法人から条件を絞ったタクシー乗務員2,874人の自然運転ビッグデータを分析した結果を紹介しています。特に長時間運転の影響に着目すると、運転を始めてから「30分以下」と「3時間半以上」の場合を比較すると、速度超過の回数が1.97倍に増加していることがわかりました。一方でわき見は運転開始時に多いなどの興味深い知見が得られ、簡単な考察なども紹介しています。

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図2:タクシー乗務員2,874人のデータから抽出した運転時間によるリスク運転回数の変化(下記記事より転載)

技術記事2:年齢とリスク運転回数の関係

こちらの記事では『DRIVE CHART』を導入しているタクシー乗務員を対象に、年齢とリスク運転回数の関係を分析した結果について紹介しています。若年ドライバーや高齢ドライバーの交通事故が注目されがちですが、より細かくリスク運転ごとの発生率を検証してみると年代によって違いがあります。たとえば首都圏にオフィスのある9,183人(20歳〜75歳)の走行データを分析したところ、たしかに高齢層では急加速や一時不停止の発生率が高いものの、脇見や後退不注意に関しては壮年・中年層の方が高いという結果になりました。具体的には10万kmあたりの回数で比較してみると、急加速の発生率は45歳〜60歳が23回、60歳〜75歳が34回、脇見の発生率は30歳〜60歳が405回、60歳〜75歳が233回となっています。一方で急減速、急ハンドル、車間距離不足、速度超過といったその他のリスク運転では発生率に違いは見られませんでした。高齢ドライバーの交通事故を削減するためには、こういった運転ビッグデータによるきめ細やかな分析が必要となってくると考えられます。

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図3:ミドル層のほうが発生率が高いリスク運転は「脇見」「後退時後方不確認」(下記記事より脇見部分を転載)

技術記事3:天候とリスク運転回数の関係

天候の違いはドライバーに大きな影響を与えます。『DRIVE CHART』を利用する法人企業における社用車管理者845人に雨天時の運転に関する調査をおこなったところ、雨天時に社用車の事故が起こったことがあると回答したのは29.5%となりました。事故が起きてしまった理由をたずねたところ、運転操作のミスが62.2%、降雨による視界不良が51.0%、心理的な焦りが47.4%という結果になりました(複数回答可)。さらに雨天時にはどのようなリスク運転が増えると感じるか聞いたところ、急減速が61.8%、車間距離不足が50.2%、急ハンドルが35.1%という順となりました。ところが実際の走行データからリスク発生率を調べてみると、急加速、急減速、急ハンドルといった突発的な運転操作や車間距離不足、一時不停止といったリスク運転の発生割合はむしろ減少し、脇見や速度超過の発生率が増加するという傾向がみられました。雨天時の運転という身近な問題であっても、経験とデータの間にはギャップがあるかもしれないという記事になっています。

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図4:『DRIVE CHART』を利用する法人車両の走行データを「晴天・曇天時」と「雨天時」に分けた場合のリスク発生割合(下記記事より転載)

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社用車の「雨天時の運転」傾向(交通毎日新聞、2023年7月)※記事はドライブチャートマガジンへのリンクとなっています。

技術記事4:運転のクセからドライバーを特定できるか

こちらは勉強会で「ドライバー同定」という分野を調査した際の記事です。運転のクセにはいくつかの種類があると思いますが、代表的な方法としては「運転環境」と「運転操作」という2つのカテゴリーを作り、その組み合わせごとの特徴量を作ることが多いです。一例をあげると、「信号なし交差点」×「停止」というカテゴリーの走行データを抽出し、「急制御の回数・大きさ」を算出することで、運転のクセの一つとします。この区切りを細かくすることで色々なクセを抽出することができますが、一方で細かすぎるとカテゴリーごとのデータが足りなくってしまうので、手元にあるデータでどのようなカテゴリーを作っていくかが重要になります。ドライバー同定は損害保険の業務においてどこまで事故時のドライバーを特定できるかというチャレンジにも使われます。こちらの記事では技術的な側面とその応用事例について紹介しています。

導入企業の方々とサービスを一緒に作っている一体感

こちらは営業・マーケティング、カスタマーサクセス、ハードウェア調達・ロジスティクス関連といった3つの異なる視点から、『DRIVE CHART』のよさ、今後の課題を語った記事になっています。当初はタクシーや物流の事業から始まったものの、今では製薬や介護送迎といった多様なドライバーからの声を聞くようになりました。このように導入企業の方々と一緒になって社会課題の解決に取り組んでいるという実感を持てるのは、我々のデータサイエンスチームの特徴かもしれません。

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Safety Driving Awards 2023(ドライブチャートマガジン、2023年10月)

ドライブチャートマガジンと無料セミナーについて

『DRIVE CHART』ではこれまでのサービスで培ってきた活用アイデアをウェブマガジンや無料のオンラインセミナーの形で定期的に提供しています。AIドラレコの検知技術に興味がある人、その検知技術が社会でどのように使われているかに興味がある人など、是非この機会にご活用ください。


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